経営管理ビザ(在留資格)を申請するときには、必要書類の準備に細心の注意を払わねばなりません。なぜなら入国管理局は、“経営管理能力”を“紙(ペーパー)”だけで審査するからです。
ということは逆に、経営管理ビザを申請するときに、“経営管理能力”を証明できる必要書類を調えさえすれば、許可される可能性は高まります。
そこで、どのような条件を満たし、どのような必要書類を用意すればよいのかを確認していきましょう。
経営管理ビザ(在留資格)取得条件
基本的に以下の3つの条件を満たす必要があります。
①一定規模
②事業の安定性・継続性
③実質的な経営関与
経営管理ビザ(在留資格)を満たすための条件①一定規模
常勤職員2名以上が勤める規模、または資本金(個人事業主の場合はビジネス立ち上げの費用)500万円以上でなければなりません。常勤職員1名で、資本金250万円以上という組み合わせも認められます。
常勤職員には、経営管理ビザ(在留資格)取得を目指す外国人を含みません。更に他の就労ビザ(在留資格)保有者も含むことはできません。
その他に、事務所もバーチャルオフィスでなく経済活動を行う現実の独立した空間でなければなりません。自宅兼オフィスとする場合には、住居部分と完全に切り分けた事業用の部屋が必要になりますし、貸主が事業目的に使用することを了承し、転貸借同意している必要があります。
経営管理ビザ(在留資格)を満たすための条件②事業の安定性・継続性
常勤職員2名を雇用する場合には、資本金の条件は特にありませんから、①の条件はクリアできます。
しかし展開する事業との関係で、あまりに少ない資本金では、本当に事業を安定的に継続できるのかと疑問符が付けられてしまいます。
既に事業を行っている会社の場合には、財務諸表などから事業の安定・継続性が判断されることになります。新規開業や債務超過となっているようであれば、事業計画書で予想収益を示すことで、安定性・継続性をアピールします。
経営管理ビザ(在留資格)を満たすための条件③実質的な経営関与
会社の経営に関与するのであれば、代表取締役でなくても問題はないのです。しかし出資金の割合が極端に少なかったり、出資金の出処との関係で名ばかりの経営者だったりする場合には、実質的に経営に関与していないとみなされ、経営管理ビザ(在留資格)を取得することはできません。
管理者として雇用する場合にも同様に、実質的な経営に関する裁量権を持つ必要があります。
国家戦略特区の優遇策
東京都、福岡県福岡市・北九州市、愛知県、宮城県仙台市、新潟県新潟市、愛媛県今治市、広島県では、経営管理ビザの申請の関する優遇措置が取られており、要件が一部緩和されています。
これは、政府が実施している「国家戦略特区」政策の一環で、各都市、地域で起業しやすい環境を作るためです。
会社設立から経営・管理ビザの取得までの流れ
・会社の制度設計の決定
屋号、所在地、事業内容、資本金の額、日本在住者の役員等を決めます。
・事務所の確保
会社の本拠地(事務所)を確保し、賃貸契約を結びます。
・資本金の振込
資本金(500万円以上)を海外の銀行から、日本在住の共同経営者の口座や本人の口座に振り込みます。
・定款の認証
会社の事業内容等が記載された「定款」を作成し、公証役場で認証します。なお、定款の作成・認証は、行政書士に代行を依頼することもできます。
・会社の登記
設立する会社の本店を管轄する法務局で、会社の設立登記を行います。なお、設立登記は、司法書士に代行を依頼することもできます。
・経営・管理ビザの申請
申請書、必要書類を出入国在留管理局に提出し、申請を行います。なお、必要書類については、次の項目で詳しくご説明いたします。
経営管理ビザ(在留資格)申請の必要書類
提出書類の一覧は、法務省の該当ページを参照いただくとして、経営管理ビザ(在留資格)申請における注意すべき必要書類について確認しましょう。
事業計画書の写し
経営管理ビザ(在留資格)を取得するための条件をクリアしていることを、書類で証明することになりますが、それらの必要書類の中で最も重要なのが、“事業計画書”です。
入国審査官は、“経営のプロ”ではありません。入国審査官にとって、事業計画書の本質を徹底的に読み取り、その会社が将来どのような成長を遂げるのかを予想することは難しいと思われます。
だからこそ、「経営管理ビザ(在留資格)取得のための条件①一定規模」があったのです。職員の人数が2人以上だとか、資本金が500万円以上というように、数字が大きければ、安心できるという理論です。そうであれば、事業計画書においてもできるだけ数字は大きい方がよいに決まっています。
でも、それだけでは不十分です。もう一つの「経営管理ビザ(在留資格)取得のための条件②事業の安定性・継続性」をクリアしていることを、事業計画書で示さなければなりません。順調な経営状態の既存の会社ならば、財務諸表等を素直に提出すれば問題ありません。債務超過の企業ならば、経営状態の回復を期待できる事業計画書でアピールします。
では新規の開業の場合には、どうしましょう。この場合には、日本国内での事業者ネットワークの活用とその展開を示すのです。日本国内において孤立無縁状態で、外国人がゼロからスタートしますというケースよりも、日本国内で活動しているビジネスネットワークを活用するという方が、安定性・継続性によりつながり易くなると受け取ってもらえるからです。
以上の内容で、注意していただきたいことがあります。嘘の数字を並び立てることは、絶対にダメです。根拠なき数字には説得力がありません。かえって怪しまれる結果を生み出します。入国審査官にその点を見抜かれたときは、経営管理ビザを取得できないだけでなく、嘘のビザ(在留資格)申請をする外国人だと目をつけられることにもなります。
現実的な数字が大きい額と言えないならば、そこは数字の根拠を丁寧に示し、事業の安定性・継続性を別の視点で強調し、カバーしなければなりません。そういう意味でも、日本国内での事業者ネットワークが活用できる方がよいと思われます。
管理者として雇用する際の採用理由書
管理者として外国人を雇用するために、経営管理ビザ(在留資格)を申請する場合には、法務省が必要書類として指定してはいませんが、他の就労ビザ(在留資格)同様に、採用理由書を調えるべきです。自社の管理者として、雇用したい外国人が、どういう点で期待でき、その結果どのような効果が期待できるのかをしっかりと説明しましょう。その際、あくまでも“管理者”として期待できる活動という視点でなければいけません。つまり、経営に関する決裁権を一切持っていないようなポジションではいけないのです。
入国審査官に対して、雇用したい外国人がどのような決裁権を行使し、そのことで日本の企業がどのようなメリットを享受できるか、それを説明するものが経営管理ビザ(在留資格)の採用理由書です。
申請が不許可になる場合とは
経営・管理ビザを申請しても受理されず、不許可になることがあります。
不許可になる主な理由は、以下のとおりです。
- 提出した事業計画書に具体性、現実味がない。
- 事業計画書を裏付ける資料が乏しい。
- ビザを申請する人のビジネス経験が乏しい。
- 「定款」の事業内容・目的が不明確である。
不許可後の対応
経営・管理ビザの申請後、不許可の通知を受け取った場合には、なぜ不許可になったのか、その理由を確認する必要があります。
そして、不備な個所を修正、あるいは追加資料を準備して、再申請することになります。
ただし、不許可された理由が、申請者自身で修正することが難しいと思った場合には、在留資格申請を専門とする弁護士や行政書士に相談するという方法を考えてみてもいいかもしれません。
4ヶ月ビザとは?
2015年4月、「経営・管理ビザ」について、「4ヶ月ビザ」という制度が新設されました。
これは、海外在住の外国人は一人でも日本に会社を設立しやすいようにしたものです。
具体的には、会社の設立準備を行っていることを証明できれば、とりあえず4ヶ月間のビザを取得できるというものです。
その4ヶ月間に会社を設立し、法務局に設立登記を行うことになります。
そして、会社設立した後、4ヶ月に期限が切れる前に、「経営・管理ビザ」の1年の更新を行うという流れです。
しかし、実際にこの「4ヶ月ビザ」は、定款認証した後で、事業計画書の作成、事務所の確保などを行った上で、申請を行うことになります。
つまり、最初から本来の「経営・管理ビザ」を申請するのと同様の手続きが必要となります。
従って、できれば日本での協力者を確保して、本来の「経営・管理ビザ」を申請することを念頭に置いた方が、煩雑でないと思います。
企業担当者が注意すべきポイント
経営管理ビザ(在留資格)で外国人管理者として雇用する場合、役職が「支店長」や「部長」などであっても、実質的な権限が伴わなければいけません。支店長といいながら、実体としては経営に関する権限を持っていないというような場合には、経営管理ビザ(在留資格)を取得することはできません。
部長と言いながら、何の決裁権を持っていないような場合も同じです。このような場合には、「技術・人文知識・国際業務」でのビザ(在留資格)取得を目指すべきです。
経営者として外国人を招く場合、「経営管理ビザ(在留資格)を満たすための条件 ③実質的な経営関与」を示すため、必要書類として出資金の出処がわかるものを、入国管理局に提出します。これは法務省が求めている必要書類のリストにはありませんが、絶対に必要になります。
高度経営・管理ビザとは?
「高度経営・管理ビザ」とは、日本の公私の機関において、事業の経営を行ったり、または管理に従事したりする活動を行うことができる在留資格です。
経営・管理ビザの場合、3年、5年の在留期間が認められることは難しいですが、「高度経営・管理ビザ」を取得すれば、一気に5年の在留期間が認められることになります。
もちろん、「高度経営・管理ビザ」を取得するには、日本の高等教育(大学、大学院)を卒業している、日本語能力検定N1に合格しているなどの要件が必要です。
まとめ
経営者として経営管理ビザ(在留資格)の取得を目指すならば、事業計画書が一番のポイントです。新規開業の場合、安定性・継続性をどのようにアピールするかは、展開する事業や活動資金と関わってきますが、できるだけ国内での販路や営業パートナーを構築しておく方が、審査を通りやすいはずです。
管理者として経営管理ビザ(在留資格)の取得を目指すならば、決裁権を持つ管理者としての能力をアピールすることはもちろんですが、会社としても名実ともに管理者としての決裁権あるポジションを用意しなければいけません。