行政書士の仕事は、官公署に提出する申請を依頼に代わって作成したり、提出したりすることです。
その中には、在留資格申請などの入管業務を行うことも含まれます。今から入管業務を始めたいと思っている行政書士に向けて、詳しくご説明いたします。
入管業務とは?
入管業務とは、一言でいえば、出入国在留管理庁宛に申請業務を行うことです。
専門的に説明すると、出入国管理及び難民認定法に則って、行政書士による取次を認められた手続きということです。
具体的には、外国に在住している外国人を日本に呼び寄せ、就労、居住させるための資格を審査してもらう「在留資格認定証明書交付申請」、現在取得している在留資格を変更する「在留資格変更許可申請」、在留期間を「在留期間更新許可申請」、そして「永住許可申請」、「資格外活動許可申請」などを扱う業務です。
取次行政書士とは?
入管業務を取り扱うことができる行政書士を「取次行政書士」と言います。
取次行政書士は、行政書士として開業した上で、特定の研修を受講し、許可を得た人を指します。
取次行政書士として認められれば、出入国在留管理局長の記名と押印がある「届出済証明書」が交付されます。
但し、有効期間は3年間です。期間を更新する際にも、次に説明する研修を受けなければなりません。
行政書士申請取次研修会とは?
取次行政書士の資格を得るためには、研修会を受講しなければなりません。
研修会の研修の情報は、行政書士に毎月送られてくる「月刊行政」(日本行政書士会連合会発行)に掲載されています。
この研修会は、「新規」と「継続」の2種類があり、新たに取次行政書士の資格を取得したい場合は「新規」、有効期間内に継続したい場合は「継続」を受講します。
FAXで研修会の申し込みを行い、研修費3万円を振り込めば、受付が完了となります。入金が確認された後に、FAXで「受付票」が送付されてきます。
研修時間は、10:30 ~ 17:00で、間に昼休みがあります。
第1限は総論で、第2・3限は各論、第4限は職務倫理で、最後に効果測定があります。
効果測定(テスト)は、研修内容から出題されますし、基本的に資料やテキストを見ても構いませんので、それほど難しくはありません。ただ、あまりにテストの結果が悪いと、修了証が交付されない場合もあると言いますので、注意が必要です。
研修から2週間程度で、修了証が送られてきます。それから申請取次行政書士に登録する続きを行うために、各都道府県の行政書士会に必要書類を送ります。
なお、現在コロナ禍のため、行政書士申請取次研修会は、集団研修の開催を中止しています。
ただ、日本行政書士会連合会のホームページにある「中央研修所研修サイト」で、VOD(ビデオ・オン・デマンド)講座を用いた方法で、研修を行っています。この研修は、所定の期間内であれば、いつでも聴講可能です。
入国前・入国後の入管手続き
入国前の主な業務は、在留資格認定証明書の交付申請です。
この証明書は、日本に入国を希望する外国人について、いずれかの在留資格に該当しているか証明するもので、法務大臣から交付されます。
在外公館でビザ申請時に、この証明書を提出すれば、かなり早い時期にビザが発給されます。このビザが発給された後は、日本での入国審査を受け、許可を経て、日本に在留することができます。
入国後の主な業務は、在留資格変更許可申請、在留期間更新許可申請です。
在留資格変更許可申請とは、日本に在留する外国人が、現在所有している在留資格を変更する場合に行う手続きです。
また、在留期間更新申請とは、現在の在留期間が満了になっても、引き続き在留したい場合に行う手続きです。
入国後の手続きは他にも、永住許可申請、在留資格取得許可申請、資格外活動申請、就労資格証明書交付申請、再入国許可申請があります。
入管業務の流れ
入国前の手続きである在留資格認定証明書の交付申請について、行政書士は在留資格の取得はもちろん、入国に至るまでのサポートを行います。
外国人本人から依頼されるケースは少なく、日本にいる外国人が親族を日本に呼び寄せたい場合、あるいは外国人を日本で雇いたいと考えている会社から、交付申請の依頼が来ることが多いと言えます。
入国後の手続きである在留資格変更許可申請は、基本的に日本に在留する外国人本人が自ら出入国在留管理庁赴き、申請手続きを行わなければなりません。
しかし、手続きに不慣れな場合など、外国人本人、あるいは外国人を雇用している会社から、行政書士に申請の依頼が来ることがあります。
在留資格を変更する場合には、新たに取得した在留資格の要件を十分確認した上で、必要な書類などを外国本人に説明し、取得してもらうことになります。申請書および必要書類を添えて、出入国在留管理庁に提出することになります。
また、外国人本人、あるいは外国人を雇用している会社が変更申請を行った結果、不許可になった場合に、再申請を行政書士に依頼されるケースがあります。
この場合も、再度申請要件を確認し、申請書や添付書類に不備などがないかを確認し、再申請をサポートすることになります。
もう一つの入国後の手続きである在留期間更新許可申請は、「永住」など、在留期間がない在留資格を持っている人以外で、引き続き同じ在留資格で在留したい外国人が申請する手続きです。
この手続きを怠り、有効期間が切れてもそのまま在留し続けると、退去強制の対象となりますから、できるだけ早めに手続きに着手しなければなりません。
この手続きも申請要件を確認した上で、必要書類を外国人に説明し、取得してもらうことになります。申請書および必要書類を添えて、出入国在留管理庁に提出することになります。
入国後の他の手続きである永住許可申請、在留資格取得許可申請、資格外活動申請、就労資格証明書交付申請、再入国許可申請についても、基本的には申請要件を確認し、必要書類を取得した上で、出入国在留管理庁に提出することになります。
入管業務の魅力・やりがいとは?
日本を訪れる外国人は年々増加しています。また、今後少子高齢化がさらに進み、日本の労働人口の減少が深刻な問題になることが考えられますから、労働の一部を外国人に頼らざるを得なくなります。
このように、日本の将来を考えていくと、日本に行ってみたい、日本で勉強したい、日本で働きたいと思う外国人はさらに増えていくことでしょう。
そのような外国人によって、在留資格の申請は不可欠ですが、自分で全て書類を準備して申請を行うことに、不安を覚えるであろうことは、容易に想像できます。
そのような時に、専門的な知識やスキルを持った行政書士がサポートすることは、外国人にとってありがたいことはもちろん、行政書士にとってもやりがいを感じるはずです。
入管業務の報酬の相場
行政書士の報酬は、各都道府県の行政書士会で規定があるわけではなく、それぞれが自由に決めて良いことになっています。
従って、行政書士事務所のホームページで確認したり、相談や問い合わせた際に、直接尋ねたりすることになります。
なお、5年に一度、各都道府県の行政書士会を統括している「日本行政書士会連合会」では、報酬額について行政書士にアンケートを取り、ホームページで公表しています。
従って、誰でも見ることができますので、依頼する前に一応の相場を確認することができます。
いくつか例を挙げますが、まず「在留資格認定証明書交付申請(就労資格)」の場合、平均の報酬額は「119,642円」で、最頻値(最も多くの人が答えた報酬額)は「100,000円」です。
また、「在留資格変更許可申請(就労資格)」の場合、平均の報酬額は「87,556円」で、最頻値は「100,000円」です。
さらに、「在留期間更新許可申請(就労資格)」の場合、平均の報酬額は「50,193円」で、最頻値は「30,000円」です。
※出典 : 日本行政書士会連合会 「平成27年度報酬額統計調査の結果」
入管業務の注意点
入管業務は、行政書士にとってやりがいのある仕事ですが、注意すべき点がいくつかあります。
まず、外国人の不正に決して加担することがあってはいけません。
これは、行政書士の他の業務にも言えることですが、依頼人の中には、事実を隠して申請を依頼してくる人がいます。
入管業務の中で、このような案件が特に多いのが、日本人と外国人の国際結婚です。
日本人と結婚することで、在留許可「日本人の配偶者等」が取得できるため、日本で生活したい、あるいは就労したいと考える外国人にとっては、憧れの在留資格です。
結婚の実態がある場合は問題ありませんが、中には偽装結婚によってこの在留資格を取得しようとする外国人、あるいは偽装結婚を画策するブローカーから依頼されることもあります。
仮に、偽装結婚とは知らなくても、このような不正に加担したとなれば、行政書士業務の停止などの処分が下る場合もあります。
また、国際結婚以外でも、就労に関する在留資格などについても、細心の注意を払い、業務を行っていく必要があります。
まとめ
日本に観光や仕事でやって来る外国人が、今後ますます増加することが予想されます。
それに伴い、行政書士が携わる入管業務の需要も増してきます。ただ、業務に関しては細心の注意を払わないと、行政書士自身にペナルティが科される可能性があります。