住民税は身近な税金ですが、その制度はわかりにくいです。日本人でも支払わなければならないこと、あるいは給与天引されていることは知っていても、全ての人が制度までを理解しているかといえば、おそらくそうではないでしょう。
外国人従業員のなかには支払う義務があることを理解していない人もいるかもしれません。しかし、理解してもらわないとトラブルのもととなる場合もあります。今回は外国人従業員と住民税についてご説明していきたいと思います。
住民税とは
まず住民税はどのようなものかお話ししておきます。住民税とは住んでいる町に納める税金です。地方自治体による行政サービスを行うための資金確保を目的としており、道府県民税と市町村民税の2つからなります。
住民税の対象者と徴収方法
前年の1月~12月に一定額以上の収入がある方からその額に応じて徴収します。住民税は所得割(前年の課税所得の10%)に均等割(5000円)を足した額になり、このように算出された住民税は特別徴収または普通徴収で納めることになります。
特別徴収は、サラリーマンやアルバイトなどの給与所得者が対象で、事業主が毎月給与から住民税を差し引き、従業員本人のかわりに納付する方法です。
普通徴収は、自営業や個人事業主の方が対象で、本人が6月に市区町村から送付される納付書を用いて年4回(6月・8月・10月・翌年1月)に分けて納める方法です。
住民税の対象とならない者
- 生活保護法による生活扶助を受給している人
- 障害者、未成年者、寡婦または寡夫で前年中の合計所得金額が125万円以下の人
- 前年の所得が自治体の定める金額以下である人
- 世帯の合計所得金額が控除対象配偶者と扶養親族の合計人数に350,000円を掛け、さらに320,000円を足した合計以下だった人。単身者の場合は前年の所得が350,000円以下の人。
- 外国人従業員の住民税
外国人従業員も、その年の1月1日時点で居住者(国内に住所を有するもの、又は国内に現在まで引き続き1年以上居所を有するもの)として日本に滞在していた場合、前年の所得に対して課税されます。税率は日本人の従業員と同様です。一方、非居住者(国内に住居及び居所を全く有しないもの、又は国内に住居を有せず、かつ、現在まで引き続いて1年未満の期間しか居所を有していないもの)には住民税は課税されません。
例外的に住民税の控除・免除を受けられる場合があります。
日本では居住者は国内で所得を得ても、国外で所得を得ても、基本的にすべての所得に対して課税がされます。その一方で外国で得た収入については外国所得税の課税対象とする国もあります。そうした場合日本と外国で二重課税されてしまうことがあり、これを調整するために外国人の住民税が控除・免除される場合があります。外国税額控除
外国で得た給与や配当所得などで、その国の所得税や個人住民税に相当する税金を納税している場合に、一定の計算によりその外国での税額が、所得税、所得税だけで還付しきれない場合は住民税からも控除することができる制度です。対象となる場合は確定申告書をする必要があります。租税条約による特例
日本は、二重課税を避けるため各国と租税条約を締結しており、住民税についても特例が認められる場合があります。実習生や研修生などで、一定の要件に該当する場合は「租税条約に関する届出書」を税務署及び市町村役場に提出することにより軽減・免除の適用が受けられる場合があります。毎年3月15日までに提出が必要となり、提出が無い年は、住民税が免除されません。外国人従業員の住民税に関する手続き
会社が住民税の課税対象となる外国人を雇用すると日本人を雇用する場合と同様に、住民税を特別徴収する義務を負います。毎年5月頃、会社宛てに従業員それぞれの方が居住する市町村から「特別徴収税額決定通知書」が送付されてきます。それを元に、その年の6月の給与から翌年5月まで、前年の所得に対しての住民税分を、支払い給与額から特別徴収を行います。外国人が転職してきた場合
外国人従業員の場合でも日本人と同様です。転職してきた従業員が特別徴収を継続する場合は、転勤(転職)等による特別徴収届出書の欄に記入して市区町村に提出します。
転職してきた従業員が普通徴収を選択していた場合、希望があれば普通徴収から特別徴収への切替届出書を提出することにより、普通徴収から特別徴収へ変更することが出来ます。
外国人が退職する場合
日本人の場合と同様です。特別徴収をしていた従業員が退職した場合、「給与支払報告に係る給与所得異動届」を従業員が居住する市区町村に提出します。また住民税の納付は、従業員の退職時期によって手続きが異なるので、退職者の希望に沿って手続きを進めることが必要となります。1月1日から5月31日までに退職があった場合
最後の給与もしくは退職手当の支給額が未徴収の税額の金額を超えるときは本人の申出にかかわらずその未徴収の税額は最後の給与もしくは退職手当から一括して徴収することができます。
6月1日から12月31日までに退職があった場合
退職月以降の住民税は普通徴収に切り替えとなります。しかし、最後の給与もしくは退職手当の支給額が未徴収の税額の金額を超え、かつ、本人からの申出があった場合にはその未徴収の税額は最後の給与もしくは退職手当から一括して徴収することができます。
ただし外国従業員が退職後に帰国するときは、注意が必要です。「給与支払報告に係る給与所得者異動届出書」は出国後の住民税の納税が困難となるため、出国の1ヵ月前までに提出しましょう。
未徴収の住民税は1月から5月分については一括徴収をします。退職日が12月31日以前の退職者についてもできるだけ一括徴収をします。一括徴収できない場合については、普通徴収にて支払いをすませ出国されるように外国人従業員に指導が必要です。また退職後すぐ帰国する場合、納税義務者自身が国外にいて納税通知書等を受け取ることができないので、「納税管理人」(納税義務者に代わって税金を納付する人)を選任し、1月1日時点で住所を有していた市区町村に対して「納税管理人申告書」の届出をする必要があります。
1月2日以降に出国する場合、新たな住民税が課税されるので、この場合も「納税管理人」を選任し、市区町村に対して「納税管理人申告書」の届出をする必要があります。
納税管理人を選定した場合、納税等の事務を本人から委任されたことになるため、出国後は本人に代わって納税管理人が納税事務を行います。市区町村からの各種通知も納税管理人宛に送付され、住民税は、納税管理人によって普通徴収の方法により納付されます。出国する方の納税管理人については、個人と法人のいずれも就任可能です。
まとめ
従業員が外国人であっても、住民税は日本人と同様に課税され、同じように手続きをします。
ただし、外国人従業員が退職する場合には、転職するのか、退職後に帰国するのかによって徴収や手続きが異なるので確認が必要です。帰国をする場合には、なるべく一括徴収をします。外国人が納税通知書を受け取れない住民税については納税管理人申告書の届出をし、外国人に変わって納税をすることになります。
住民税の制度はわかりづらいものですが、後でトラブルになることのないよう外国人従業員にも理解してもらえるようよく説明をしておきましょう。