前回の社会保険編では、社会保険の基礎知識や保険未加入のリスクなどを説明しました。
社会保険は雇用している社員の健康や老後のための必要な保険であり、国籍を問わず加入が必要になることが分かっていただけたと思います。
今回は雇用する従業員の勤務時間中の事故や失業したときの生活を守る役割をもつ労働保険について詳しく解説していきます。
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労災保険とは
実は「労働保険」というのは、「労災保険」と「雇用保険」の総称です。
「労災保険」とは正式名称を労働者災害補償保険と言います。この労災保険は、労働者が業務の最中や通勤途中に事故に遭った場合、業務に起因した理由で病気になったり怪我をしてしまった場合、または死亡してしまったりしたような場合にその労働者本人や遺族を守るために給付される保険です。
病気や怪我で働けなくなった場合、生活や治療費の不安は労働者にとって大きな問題です。労災保険はそのような労働者を守るために創設された国の制度です。原則として事業主は従業員を一人でも雇用していれば労災保険に加入しなければなりません。正社員やパート、アルバイトといった雇用形態は問いませんし、労働者の性別や国籍も問いません。
つまり、外国人労働者を雇用した場合においても労災保険に加入しなければならないのです。
また、事業所によっては繁忙期のみアルバイトを雇う、などという形態をとっている場合もあるかもしれません。
このような場合にも、年間100日以上雇用する場合には、「労働者」に数えられますので、注意が必要です。
雇用保険について
「雇用保険」とは労働者が失業した場合や労働者の雇用の継続が困難になった場合、育児や介護などで一時的に休業する場合の生活を支えるために給付される保険です。
雇用保険の適用事業所に雇用されている従業員は本人の意思とは関係なく、一定の条件を満たせば原則として雇用保険の加入者となります。
また加入条件として性別や国籍は関係ありませんので、外国人であっても雇用保険への加入については、日本人の従業員と変わりはありません。
また給付の内容ですが、既述のとおり、失業や休業などで働けなくなった場合の生活を支えるための保険給付という側面もありますが、実は雇用保険には他にも様々な給付があります。
例えば一定の条件を満たす被保険者などが厚生労働大臣の指定する教育訓練を受講し、終了した場合には被保険者が支払った教育訓練費用の一部が支払われる教育訓練給付などはその一例です。これは被保険者の中長期的なキャリア形成を支援するための制度です。
ただし、給付を受けるためには事前の手続きなどもありますので、まずは内容をよく調べたり、ハローワークに問い合わせたりすることをお勧めします。
各種保険に関わる手続き
労働保険に加入するためには指定された官庁に必要書類を提出しなければなりません。これは従業員が日本人であっても、外国人であっても必要書類は同じです。
ただし、業種によって下記以外の書類も必要となることがあります。管轄の労働基準監督署に確認すると良いでしょう。
労災保険加入に必要な手続き
事業を開始してから10日以内に管轄の労働基準監督署に必要書類を提出します。
必要な書類は
- 保険関係成立届
- 概算保険料申告書
- 登記簿謄本
です。保険関係成立届と概算保険料申告書は労働基準監督署にあります。
雇用保険加入に必要な手続き
雇用保険の適用事業所になった日の翌日から10日以内に公共職業安定所に必要書類を提出します。
必要な書類は
- 保険関係成立届
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
になります。
雇用保険適用事業所設置届と雇用保険被保険者資格取得届は公共職業安定所にあります。
また「概算保険料申告書」を公共職業安定所ではなく、所轄の都道府県労働局もしくは日本銀行(全国の銀行などでも可)に持っていき、保険料の申告と支払いを行います。
ハローワークへの届出
外国人を雇用した場合についても、一定の条件を満たした外国人は日本人と同様労働保険に加入しなければなりません。併せて外国人を雇用した場合には外国人雇用状況届出書の提出をしなくてはなりません。
ここは日本人を雇用した場合と異なる点ですので、注意しましょう。
外国人雇用状況届出書はハローワークでも入手できるほか、厚生労働省のホームページからもダウンロードすることができます。
届出書には、雇用した外国人の氏名、在留資格、在留期間や生年月日の他、資格外活動許可の有無を記入します。
資格外活動許可とは、例えば就労を目的としない「留学」の在留資格を持っている学生が、許可を得て、資格外であるアルバイトなどの就労を行うような場合です。
外国人雇用状況届は事業主の義務であり、届出を行わなかった場合には、所轄官庁から指導や勧告の対象となるとともに、30万円以下の罰金の対象となります。
この届出は外国人雇用状況を把握するとともに、外国人の雇用環境改善や不法就労の防止に役立ちます。
外国人を雇用した場合には、必ずハローワークに届出を行うようにしてください。また、この外国人雇用状況届は外国人が離職した場合にも同様に届出が必要となります。忘れないようにしてください。
押さえておきたいポイント
従業員を一人でも雇用すればその事業者は強制的に労災保険の適用事業者となりますが、例外として労災保険の適用除外となる事業もあります。
例えば常時雇用している従業員が5人未満である個人経営の農林水産業などです。また、事業主や法人役員、事業主と同居している家族の従業員は労災保険に加入ができません。
雇用保険も同様に常時雇用している従業員が5人未満である個人経営の農林水産業は適用除外となります。また、雇用保険の場合には週の所定労働時間が20時間未満の場合や31日以上の雇用が見込まれていないような場合は雇用保険の適用除外となりますので、事業主の方はご自身の業種や従業員が適用除外か否かを確認してみてください。
また適用除外でないにもかかわらず、故意に労働保険に加入しない場合は、罰則がありますので、注意しましょう。
まとめ
労働保険は従業員を守るために事業主に加入義務があります。
しかし、事業主に保険料の支払い負担を避けるためだったり、労働保険加入に関する知識不足だったりして労働保険の成立手続きを行っていない事業主も少なからずいらっしゃいます。
しかし、労働保険の手続きをしていない場合には、遡って労働保険料と追徴金を支払わなければなりません。また手続きをしていない間に従業員に労働災害が生じた場合は、上記と合わせて労災保険給付に要した費用の全部または一部を徴収されます。
労働保険の未手続きは従業員を守れないばかりでなく、結果的に事業主が負担を負う事になります。
労働保険に加入し、安心して働ける職場環境を作るのも事業主の大切な義務です。
また日本人であろうと外国人であろうと大切な従業員であることに違いはありません。必ず労働保険加入手続きを行い、大切な従業員を守っていきましょう。