「永住者」という在留資格は聞いたことがあると思います。では、「特別永住者」という在留資格を聞いたことはあるでしょうか。

あまり耳なじみのない在留資格かもしれません。この「特別永住者」という在留資格の成り立ちには歴史が大きく関わっています。今回は「特別永住者」について解説していきます。

永住者と特別永住者の違い

「永住者」と「特別永住者」は一体何が違うのでしょうか。
まずはそれぞれの在留資格について詳しく見ていきます。

 

永住者とは?

現在何等かの在留資格を有する外国人が法務省に永住者への在留資格の変更を希望する場合、その在留資格変更許可を申請します。

それに対して法務大臣が永住の許可を与えた場合、その外国人は永住者として在留期間や職業の制限なく日本で暮らすことができるようになります。


しかし、在留資格を有していれば誰でも永住申請ができるわけではなく、現有している在留期間や日本で生活してきた期間等ある一定の法律的な要件を満たす必要があります。

しかし、その法律的要件の中には外国人が有している国籍の制限などはありませんので、永住申請の法律的要件を満たせばどこの国の外国人でも永住者になれる可能性はあるという事になります。

 

特別永住者とは?

第二次世界大戦中、韓国、朝鮮、台湾等は日本の統治下にありました。そのような歴史的背景により、日本で暮らしていたそれらの国々出身の方たちは「韓国国民」や「台湾国民」等ではなく、「日本国民」とされていました。

つまり日本国籍であった、という事です。

終戦後の1952年、日本はアメリカ合衆国サンフランシスコ市において、平和条約を締結し連合国軍との戦争状態に終止符を打つことになります。いわゆるサンフランシスコ平和条約の締結です。この条約により日本の領土が減縮され、朝鮮半島や台湾等も日本の領土ではなくなりました。それに伴い、今まで「日本国民」とされてきた在日の韓国人、朝鮮人、台湾人等の人々は日本国籍から離脱することになりました。

この日本国籍から離脱した人の事を平和条約国籍離脱者と言います。平和条約国籍離脱者の中には、日本国籍を失ってもそのまま日本で暮らし続けている人も多くいました。

平和条約国籍離脱者やその子孫の在留資格については、歴史的に様々な変遷をたどりましたが、1991年「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(以下「入管特例法」と言います。)が定められ、「特別永住者」として日本に在留することとなりました。

特別永住者の在留資格を取得するためには、「平和条約国籍離脱者」もしくは「平和条約国籍離脱者の子孫」でなければなりません。戦後、朝鮮半島や台湾等、自国に戻った人はここでいう「平和条約国籍離脱者」に該当しないことに注意が必要です。

また「平和条約国籍離脱者の子孫」として特別永住者となる要件として、「「平和条約国籍離脱者」の子、もしくは直系卑属として出生した子孫で、日本で出生し引き続き日本に在留した者」でなければなりません。

従って、朝鮮半島や台湾等で出生した者は「平和条約国籍離脱者の子孫」には該当しません。

また1991年11月1日に定められた要件に該当している者は自動的に「特別永住者」としての在留資格を取得し、日本に永住することができますが、他にも「入管特例法」の第4条、第5条に該当する場合は、特別永住許可申請書等の書類を法務大臣に提出し、許可を得ることで「特別永住者」の在留資格をもって日本に在留することが出来ます。

 

永住者と特別永住者の違い


「特別永住者」の在留資格には歴史的背景が深く関係しています。

そのため、「特別永住者」に該当するのは在日の韓国人、台湾人等特定の国籍を有する「平和条約国籍離脱者」または「平和条約国籍離脱者の子孫」でなければなりません。
まずこの点が国籍を法律要件としていない永住者との違いです。


もう1点は「特別永住者」は日本で出生している事が要件となります。この点、永住者は「日本での出生」は要件となっていません。

また「永住者」になるためには原則的に10年以上日本で生活し、その間納税もきちんと行い、独立して生活ができる収入を得ているかどうかの審査基準がありますが、「特別永住者」になるためにはそのような審査基準は設けられていません。

 

帰化との違い

「帰化」とは他の国の国籍を有する外国人が日本の国籍を取得することを言います。

特別永住者や永住者は在留期間や活動内容に制限はないもののあくまでも他の国の国籍を有する外国人です。
そのため戸籍を持っていませんし、パスポートも日本のものではなく外国のものです。


帰化すると日本の戸籍を有することとなり、日本のパスポートを持ったり、参政権も得られ日本の選挙に投票したり立候補したりすることができます。

永住者や特別永住者はあくまでも日本に居住する外国人であり、日本国籍を有する者ではない、というところが日本国籍を有することの出来る帰化との大きな違いになります。

 

特別永住者が帰化する際の優遇ポイントとは?

特別永住者は元々日本国籍を有していた者、またはその直系卑属として出生した者です。

その特別永住者が日本国籍を取得する、いわゆる帰化をする、という場合、実は永住者などの他の在留資格と比較して優遇されるポイントがあるのです。


帰化の種類には3種類ありますが、そのうち特別永住者の方が帰化をする場合には「簡易帰化」に該当します。
しかし「簡易」とはいえ、普通帰化(外国で出生した方が来日し、日本国籍を取得するような場合)と比較して要件が緩和されてはいるものの、手続きが簡単になるという事ではありません。


では、緩和されている要件について見ていきましょう。
普通帰化は日本に引き続き5年以上住所を有している事が条件になりますが、簡易帰化の場合は3年以上日本に住んでいれば帰化申請は可能です。

帰化申請を行う際には日本語能力も重要ですが、特別永住者の方は日本で生まれ、日本で長く生活している方が多いので、日本語能力は問題ない方が大半ではないかと思います。

ただし、素行要件や生計要件については普通帰化と同様に審査されますが、日本の法規範を守って、払うべき税金や年金の支払をしていれば問題ないでしょう。

 

特別永住者証明書とは

日本に滞在する外国人には旅券、いわゆるパスポートの携帯が義務付けられています。

しかし、日本に3ヶ月以上の中長期にわたり在留する外国人には在留カードが交付され、このカードを携帯することが義務付けられています。これは永住者であっても同様です。


しかし、この在留カードの交付対象者には特別永住者は入っていません。なぜなのでしょうか。

実は特別永住者には在留カードではなく、「特別永住者証明書」が交付されます。

2012年7月9日に特別永住者の制度が変わり、それまでの外国人登録証明書から「特別永住者証明書」に変更となりました。

在留カードは地方出入国在留管理局への申請、受領となりますが、「特別永住者証明書」は特別永住者が居住している市区町村窓口への申請、受領となります。

また上記のとおり、在留カードは常時携帯しなければなりませんが、この「特別永住者証明書」は常時携帯の義務はありません。

 

特別永住者の在留資格を損失する場合とは?

特別永住者の在留資格を有しているという事は、本人またはその先祖がかつて日本国籍を有していた、という事になります。

このような歴史的背景から特別永住者は他の在留資格と比較し先ほどの帰化申請等のように様々な点において優遇されているという側面があります。これは在留資格の取消についても同様です。

例えば他の在留資格についての退去強制事由について見てみると出入国管理及び難民認定法第24条に20項目以上にわたり規定されていますが、特別永住者の退去強制事由については入管特例法に別に規定されており、またその内容も重大な国益を侵害する行為のみに限定されています。

このように他の在留資格と比較し優遇されている特別永住者であっても資格を喪失する場合があります。


それは、再入国許可(みなし再入国を含む)を受けずに出国してしまった場合、または再入国許可を受けて出国はしたもののその再入国許可の有効期限内に日本に入国しなかった場合です。

既述のとおり、特別永住者の在留資格を得るための条件として「引き続き日本に在留」している事が求められていますが、上記のような場合には「引き続き日本に在留」しているという要件を満たさないと判断されるためです。

なお、特別永住者のみなし再入国許可の有効期間は2年間、再入国許可の有効期限の上限は6年間です。
万が一、特別永住者の資格を喪失してしまった場合、再度特別永住者の在留資格を取得することはできませんので、注意しましょう。

 

まとめ

特別永住者と永住者の大きな違いは、特別永住者本人または先祖がかつて「日本人」であった、というところにあるでしょう。

そのため特別永住者には他の在留資格と比較して優遇されているポイントはあります。とはいえ、特別永住者の在留資格を喪失する場合もあるのだという事を念頭においたうえで、日本で生活していただきたいと思います。