日本において、様々な業種で人手不足が起こり、特に建設業界では以前から深刻な人手不足がありました。
それを補うため、新たな在留資格「特定技能」が創設されました。
建設業における「特定技能」とはどんなものなのか、詳しく説明していきます。
特定技能の「建設」分野とは
特定技能の「建設」分野とはどんなものか、建設業界の現状から制度までを解説します。
建設業界の現状
建設業界では以前から慢性的な人手不足が叫ばれており、技能実習生がその人手不足を補ってきた経緯があります。
国土交通省の資料によると、建設分野で活躍する外国人の数は、2019年では93,214人で、2011年に比べると7倍以上に増加しています。
建設分野で働く外国人のうち、在留資格別では、技能実習生が最も多くなっています。
出典:国土交通省「建設分野における外国人材の受け入れ」
特定技能創設の経緯
技能実習生が、実質的に人手不足を補っていましたが、技能実習生は技術を身につけると、最終的には帰国します。
現場で技術を身につけ、本人も会社も引き続き働くことを希望しても、そのまま日本で働くことはできない制度でした。
そのため、深刻な人材不足解消も、技術を身につけた外国人材の活用もできません。
そこで、誕生したのが、新たな在留資格「特定技能」です。
特定技能では、技能実習を修了し、技術を身につけた外国人が、技術を生かして引き続き日本で働けるようになりました。
特定技能の建設の制度
特定技能の建設分野では、建設業界では技能実習生が多くいることから、技能実習2号または3号修了者が移行するケースが想定されています。
技能実習生から特定技能に移行する場合は、試験が免除されます。
また、技能実習2号または3号修了後に2022年度まで措置として「特定活動(外国人建設就労者受入事業)」で働いていた人も「特定技能」に試験なしで移行することができます。
さらに、技能実習生のみならず、他の分野の技能実習と同じく、試験合格者も対象になることができます。
最初に特定技能1号となり、最大5年まで更新することができます。
その後、評価試験の合格など、一定の条件をクリアすると、特定技能2号になることができます。
建設業における受入人数
建設業における特定技能の受入数は、令和5年度末時点で、全国で約4万人を見込んでいるようです。
受入企業においては、受入企業の常勤職員の総数を超えて、特定技能1号の外国人を受け入れることはできません。
対象職種について
建設業の技能実習から移行できるとはいえ、技能実習のすべての職種が特定技能に移行できるわけではなく、移行可能な職種は、現状では限られています。
技能実習で可能な25職種38作業のうち、13職種22作業が特定技能で認められています。さらに、技能実習にはない業務区分も設けられています。
制度開始時は、現在より職種が少なかったものの、2020年度から7業務区分も追加され、職種については、今後も人材不足の状況から拡大される傾向にあると思われます。
特定技能1号と2号については、対象職種は同じで、1号の経験で熟練した技術者が2号に進むと想定されています。
建設分野で外国人を受け入れるには
建設の特定技能で外国人を受け入れるには、どのような手続きが必要かについて説明します。
外国人受け入れの流れ
特定技能の建設分野で外国人を受け入れるにはどのような手続きの流れになるのか、ルート別に説明します。
技能実習生または建設就労(特定活動)からの移行者の場合
技能実習2号または3号を修了した外国人は、修了時点で技能や日本語能力があると評価され、試験が免除されます。
特定技能として働く会社との雇用契約を行い、建設特定技能受入計画を作成し、国土交通省の認定を受けます。
それらが揃ったら、現在持っている技能実習または特定活動の在留資格から変更するため、在留資格変更申請を行います。
試験合格者の場合
他の特定技能と同じく、指定の技能評価試験、日本語能力試験に合格することによって、特定技能になれる資格を取得することができます。
試験合格後は、技能実習生からの移行者と同じく、雇用契約、建設特定技能受入計画の認定を行います。
海外在住者は、在留資格認定証明書申請、すでに別の在留資格で日本に滞在している人は、在留資格変更申請を行います。
海外訓練者の場合
特定技能の建設の分野では、海外の現地機関による募集を行い、海外で訓練等を行ってから入国する方法もあります。
適性検査や日本語、技能の訓練の後、試験合格者と同じく、指定の技能試験、日本語能力試験に合格することが必要です。
合格後の手続きは、在留資格認定証明書申請を行い、在留資格を取得します。
建設業者団体及び受入企業、元請企業に対して課される条件
特定技能を受け入れるためには、受入を行う建設業者団体や実際に外国人が働く受入企業、受入企業が下請の場合の元請企業に対して、条件が課されています。
加入義務
特定技能を受け入れる建設業者団体は、特定技能外国人受入事業実施法人である一般社団法人建設技能人材機構(JAC)への加入が義務付けられています。
特定技能の受入に直接関係がある場合は、正会員としての加入、直接の関係がない場合は賛助会員としての加入する義務があります。
また、受入企業は、JACに加入する建設業者団体に加入することによって、間接的にJACに加入していることになります。
建設業者団体に加入していない受入企業については、JACの賛助会員として加入が必要です。
元請企業の義務
建設業の場合、実際に特定技能外国人を受け入れるのは下請企業であるケースがあります。
その場合、元請企業は、直接特定技能を受け入れるわけではありませんが、元請企業の責任として、指導監督する必要があります。
登録支援機関の利用
受入企業は、特定技能外国人に対して、入国時のオリエンテーションや生活面での支援をすることが定められています。
社内だけでそうした支援が十分に行えない場合には、登録支援機関に支援を委託することができます。
雇用条件など
雇用条件については、同等技能、同等報酬とし、適切な条件が求められます。
また、特定技能の受け入れに関してだけではなく、会社全体として労働関係法令等の遵守も求められます。
建設キャリアアップシステムへの加入や技術習得・資格取得の推進も行うように義務付けられています。
さらに、受入時には、国土交通省から建設特定技能受入計画の認定を受ける必要があります。
建設特定技能受入計画とは
特定技能を受け入れるためには、国土交通省から建設特定技能受入計画の認定を受ける必要があります。
建設特定技能受入計画とは、具体的にどのような雇用条件で受け入れるのかなどについて記したものです。
申請に必要な手続きについて、説明します。
建設特定技能受入計画の認定申請手続き
令和2年4月1日より、原則としてオンライン申請になりました。
まずは、必要書類を準備します。
必要書類は、登記事項証明書や建設業許可証、建設キャリアアップシステムの事業者ID、就業規則や賃金規定、特定技能雇用契約書など15項目必要です。
許可証などは、必ず有効期限内のものを添付するようにします。
オンライン申請では、「外国人就労管理システム」にアクセスして登録を行います。
登録後、指示に従って入力していき、必要な書類を添付するなどして申請を行います。
申請後はポータルサイトから申請した計画の確認等も行えます。
出典:国土交通省「建設特定技能受入計画のオンライン申請について 【新規】」
建設特定技能受入計画の認定要件
特定技能受入計画は、低賃金や社会保険未加入など、劣悪な条件、環境で雇用しないように防ぐために行われるものです。
受入会社が適切な労働環境を整えているのかどうかがポイントになります。
計画の認定要件は、下記のような内容です。
建設キャリアアップシステムへの事業者登録
工事現場ごとに外国人労働者が管理でき、不法就労等の防止にもつながります。
国内人材確保の取り組み
特定技能は、国内での人材確保が困難な場合に受け入れ可能とされています。
そのため、社員の待遇をおろそかにしていないか、ハローワークの求人票は適切かなどが審査されます。
適正な労働環境の確保
特定技能外国人に対し、日本人が従事する場合と同等以上の報酬であり、なおかつ、技能別に適切な報酬になっているかどうか、が審査されます。
報酬の支払い、昇給などについても適切に行われることが必要です。
特定技能外国人の安全衛生教育や技術習得の支援
特定技能1号の受入後は、講習や研修を受けさせる必要があり、その環境を整えることが必要です。
また、安全衛生教育やキャリアアップのための資格取得や技能研修など、特定技能の外国人が技能を身につけるために支援することが必要です。
建設キャリアアップシステムとは
建設キャリアアップシステムとは、技能者の資格、社会保険の加入状況、現場の就業履歴等を業界で横断的に登録・蓄積する仕組みです。
事業者の情報、現場情報、技術者情報などを登録し、技術者にカードを交付します。
建設現場でカードを読み取り、技術者の就業履歴を蓄積させます。
評価基準に合わせてカードの色が変わり、初級技術者からマネジメント力がある高度な技術者まで4段階に分かれています。
これらは、技能向上やキャリアアップによる給料引き上げ、建設業の担い手確保などを目的として行われています。
特定技能の受入企業は、この建設キャリアアップシステムの導入が必須とされています。
評価試験について
特定技能1号、2号になるには、それぞれ評価試験を受ける必要があります。
特定技能1号
特定技能1号になるには、評価試験に合格する必要があります。
ただし、技能実習2号または3号修了者については、これらの試験はすべて免除されます。
技能水準として「建設分野特定技能1号評価試験」または「技能検定3級」、日本語能力の試験として「国際交流基金日本語基礎テスト」または「日本語能力試験(N4以上)」に合格する必要があります。
特定技能2号
特定技能1号は、最大5年まで更新することができます。
その後、2号に移行するためには、評価試験が必要です。現時点では、2号の人はいませんが、評価試験は準備されています。
2021年実施予定の「建設分野特定技能2号評価試験」または「技能検定1級」の合格が必要です。
さらに、2号では、試験合格だけでなく、班長としての実務経験を1~3年以上することも条件とされています。
まとめ
人手不足が深刻な建設業界ですが、特定技能が新たな人材確保の手段になりつつあります。
特定技能は、受入企業側に様々な要件があり、労働環境を整える必要があります。
それらをすべてクリアし、外国人技術者を受け入れることができます。