2019年4月1日より人手不足が深刻な産業分野において新たに「特定技能」という在留資格において外国人材の受入れが可能となりました。
今回はその産業分野のうち、「素形材産業分野」における特定技能外国人雇用について解説していきます。
素形材産業とは何か?
素形材産業とは金属やプラスチックなどの素材に鋳造や塑性加工等によって熱や圧を加えることによって形状を与え、部品や部材を製造する産業のこと言います。
日本の一大産業である自動車は多くの部品から作られていますが、例えば自動車のボディ、エンジン、トランスミッションなど多くの部品が金属を指定の機械によって加工され製造されています。
一つ一つの部品を製造する素形材産業は自動車産業のみならず、精密機械や産業用機械等多くの組立産業を支える重要な産業と言えるでしょう。
「素形材産業」が産業分野に加えられた理由
日本の生産人口の減少
令和元年版高齢社会白書平成30年10月1日の総務省「人口推計」データによると日本の高齢化率は28.1%となっており、今後も75歳以上人口は増加傾向が続くものと見込まれています。
一方出生数は減少を続け、この影響から生産年齢人口も減少を続けており令和11年(2020年)には6951万人と7000万人を割り込み、令和47年(2065年)には4529万人にまで減少する見込みです。
出典 : 内閣府ホームページ
日本社会全体が少子高齢化による生産人口減少によりどの産業も新国な人手不足の問題に直面しています。
社会もこの問題に対応するために高齢者や女性の活用を進めてはいるものの、人手不足の解消には至っていません。
日本の90%以上を占める中小企業では求人を出しても応募が来ないという現状から人手不足による倒産が生じるなど日本経済に大きな影響を与えています。
素形材産業分野の現状
少子高齢化の影響はどの産業にも影響を与えていますが、具体的に素形材産業分野の現状となっているのでしょうか。
経済産業省「素形材産業分野における特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針」によると、素形材産業分類に関連する職業分類における有効求人倍率は2.83倍(平成29年度)となっています。
具体的な職種で見ると鋳物製造工3.82倍、鍛造工4.32倍、金属プレス工2.97倍となっており、深刻な人手不足の状況にあると判断しているのが分かります。
素形材産業は「日本の製造業の根幹を担っており国民生活に不可欠な分野である」ため、この分野の持続的な発展のためにも基本的な知識や技能を持った外国人材を雇用することが必要であるという判断から素形材産業分野が特定技能外国人受入れ対象の産業分野に加えられたものと考えられます。
もちろん各企業においても設備投資やIT導入などによって継続的な生産性向上の取組や高齢者及び女性の働きやすい職場環境づくり、適正な賃金水準の確保など国内人材確保のための取組も継続していることと思いますが、技術の発展などにより素形材部品に対する需要の高まりから外国人材受入れの必要性があると判断されたのではないでしょうか。
素形材産業分野では2023年までに21,500人を上限として受入れを計画しています。
特定技能「素形材産業」の具体的な業務内容について
上記の通り素形材産業と一言で言っても業務内容は様々です。
ここからは具体的な業務内容についてみていきます。
素形材産業の業務内容は下記の13区分となります。
1.鋳造
金属を熱で溶かし、その液体を鋳型に流し込み冷却して固め製品を製造する作業です。
2.鍛造
金属をハンマーなどで叩き成形したり、強度の高めたりしながら製品を製造する作業です。
3.ダイカスト
熱で溶かされた金属を金型に注入し冷却して固め精度の高い製品を短時間で大量に製造する作業です。
4.機械加工
切削機械や工作機械を使用し、金属材料などを加工する作業です。
5.金属プレス加工
機械の中に金属板などの素材を挟み、力を加えることで曲げたり絞ったり等の加工を行って成形する作業です。
6.工場鈑金
薄い平らな金属板に切断や曲げなどの加工を行う作業です。
7.めっき
腐食防止等のために金属等の素材の表面に金属の薄膜を被覆する作業です。
8.アルミニウム陽極酸化処理
アルミニウムを陽極(+極)で電解処理し人工的に酸化被膜を生成させる表面処理作業です。
9.仕上げ
手作業や機械作業によって部品を加工・調整・研磨等を行い部品の精度を高め仕上げや組立を行う作業です。
10.機械検査
製造された部品等に対し検査器具等を用いて所定の品質項目に合致しているかどうかの検査を行う作業です。
11.機械保全
工場の機械設備を点検し事前の故障や劣化を防ぎ機械の正常な運転を維持し保全する作業です。
12.塗装
部品の表面に装飾や保護等を目的として塗料を塗ったり吹き付けたりすることで被膜をつくる作業です。
13.溶接
分割している材料を熱や圧力を加えることによって、材料同士を接合させる作業です。
特定技能「素形材産業」分野で働く方法
特定技能の在留資格を取得するためには2つの方法があります。
技能実習2号(または3号)を良好に修了する
現在技能実習生として日本で働いている、又は以前実習生として日本で働いていた方は特定技能外国人として働くことができます。
「良好に」という条件は技能実習2号で受験する技能評価試験に合格するか、不合格の場合又は受験していない場合は実習実施者や監理団体から評価調書を出してもらうことでクリアできます。
「良好に修了」ですから途中で失踪した技能実習生や現在技能実習中の外国人は対象外となります。
技能実習を経験していれば誰でも素形材産業分野で働けるわけではなく、上記13区分に該当する職種での技能実習を経験した外国人に限られます。
この場合、下記で解説する技能試験及び日本語試験は免除されます。
製造分野特定技能1号評価試験に合格する
技能実習未経験者及び技能実習とは異なる産業分野又は業務区分で特定技能として働きたい場合には、働こうと考えている業務区分の技能評価試験と日本語試験に合格する必要があります。
日本語は日本語能力試験N4以上を取得するか国際交流基金日本語基礎テストA2レベル以上を取得する必要があります。
評価試験は基本的にはペーパー試験ですが、溶接分野は製作実技があります。
2019年度インドネシアにおいて評価試験を行った際の参考数値ですが、難易度は技能検定3級又はこれに相当する技能実習評価試験(専門級)相当程度だったようです。
学科試験においては正答率65%以上が合格、溶接の実技試験においてはJIS Z 3801、半自動溶接作業はJIS Z 3841に基づき判定されました。
手数料は合格証明書発行手数料が必要となるようで、インドネシアで実施された溶接職種の手数料は50,000円でした。
2020年度の評価試験ですが国内で東京、愛知、大阪等で試験が行われる予定です。
出典 : 経済産業省「製造分野特定技能1号評価試験(国内試験)の開催について」
以前は日本において評価試験を受験できるのは「中長期在留者及び過去に中長期在留者として在留していた経験を有する方」等に限られていましたが、2020年4月1日以降、国内での評価試験受験資格が拡大され、「在留資格を有する者」として在留資格をもって在留する方については一律に受験が認められました。
これにより、試験を受ける目的で「短期滞在」の在留資格で入国し受験することが可能になりました。
ただし、在留資格を有していない外国人は日本での受験はできませんので、不法残留者の受験はできません。
試験についての情報は随時法務省のホームページや経済産業省のホームページ等に掲載されていきますので、こまめに確認しておくと良いでしょう。
法務省 : 試験関係
特定技能「素形材産業」において外国人を雇用する際の注意点
製造分野において特定技能外国人を雇用する際には直接雇用でなければなりません。
特定技能では派遣が認められているのは農業と漁業分野のみだからです。
また受入れ企業には労働、社会保険や租税に関する法令を遵守している事などが求められます。
素形材産業分野のみならず、製造3分野において特定技能外国人雇用で一番難しいのは産業分野該当性の判断です。
自社の製品が特定産業分野に該当するかどうかについては事前に日本標準産業分類を参考に確認しておく必要があります。
この際、政府統計の窓口であるe-Statを利用すると良いでしょう。
このサイトのキーワード選択に特定技能外国人を雇用したい事業所における製造品を入力します。
そうすると関連する中分類、小分類、細分類等の数字が出てきますので、それが下記の赤枠の番号と合致しているかどうか確認することで、自社製造品が特定産業分野に該当するか否かある程度判断がつくでしょう。
またはキーワード検索を分類コード検索とし、上記番号を入力することで、具体的にどのような製造品が素形材産業分野の製造品となるかが分かります。
また特定技能外国人を雇用した事業所は4ヶ月以内に「製造業特定技能外国人受入れ協議・連絡会」へ入会しなくてはなりません。
その際に協議・連絡会において「業種該当性がない」と判断される可能性もあります。
その場合は雇用した企業が外国人の転職支援を責任をもって行ってください。
できれば出入国在留管理局に申請を出す前に協議・連絡会への入会をして該当性があると判断されてから在留資格申請手続きを行うことをお勧めいたします。
製造分野においては雇用する企業ごとの特定技能外国人受入れ人数の上限等は特に定められていません。
まとめ
特定技能外国人受入れを行う場合、業種の該当性等難しい判断もありますが、基本的な技能や知識をもった外国人労働者は少子高齢化の影響で人手不足に悩む中小企業においては頼りになる存在となります。
一度検討してみてはいかがでしょうか。