在留資格「特定技能」は、今後の日本の労働人口減少の対策として、人手不足が深刻な産業分に、専門性・技能を持っている外国人労働者を受け入れる制度です。

この特定技能の中に「造船・舶用工業」がありますが、この制度が設けられた背景、取得要件、雇用する際の条件などを詳しくご説明いたします。

特定技能とは

日本は、基本的に「移民政策」を取っていません。
従って、日本では今まで、基本的に単純労働を行う外国人労働者は、雇用できませんでした。

しかし、1997年をピークとして、日本における生産人口は減少に転じています。このような事態を打開する方法として、特定の業種に限定して、外国人労働者の雇用を認めるようにしました。
これが、「特定技能」の制度です。

認められている業種は、建設業、造船・船用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業介護ビルクリーニング農業漁業、飲食料品製造業、外食業素形材産業産業機械製造業電子・電気機器関連産業の14種類です。

 

特定技能「造船・舶用工業」とは

冒頭でも説明しましたが、日本での労働人口の減少は深刻ですが、造船・舶用工業の分野でも例外ではありません。

特に造船・舶用工業は、地方に生産拠点があるため、人手不足は深刻です。
造船・舶用工業分野での主な職種の平成29年度の有効求人倍率は、次のとおりです。

  • 溶接(金属溶接・溶断工) … 2.50 倍
  • 塗装(塗装工) … 4.30 倍
  • 鉄工(鉄工、製缶工) … 4.21 倍
  • 仕上げ(めっき工、金属研磨工) … 4.41 倍
  • 機械加工(数値制御金属工作機械工) … 3.45 倍
  • 電気機器組立て(電気工事作業員) … 2.89 倍


以上の各6業務の平均は、3.62倍です。
同じ平成29年度の一般職業の平均の有効求人倍率が1.50倍ですから、造船・舶用工業分野の人手不足がいかに深刻であるかわかると思います。

この数字から、約6,400人の労働人口が不足していることになります。


また、2023年における人手不足の見込みについて、国土交通省設置の審議会では「世界の新造船建造量のシェア3割」を獲得することが目標として、掲げられました。この目標を達成するには、約22,000人の人手が不足すると推計されています。

 

特定技能「造船・舶用工業」で求められる人材

特定技能「造船・舶用工業」で求められる人材としては、即全力、つまり直ぐに仕事で活躍できる人です。また、併せて日本語能力も十分に持っていなければなりません。

逆に、留学生として過去に退学処分や除籍処分受けた人、あるいは失踪者、難民、イラン・イスラム共和国のパスポートを持つ人は、採用されません。
※出典(出入国在留管理長「特定技能外国人受入れに関する運用要領」)

 

特定技能「造船・舶用工業」の内容

特定技能「造船・舶用工業」は、6種の業務があります。

なお、特定技能には、1号と2号がありますが、特定技能1号が作業に従事するものであることで、一方特定技能2号は作業員を指揮・命令・管理する監督者の業務が追加されます。


以下の6業務は、特定技能1号がすべての業務、特定技能2号が「溶接」のみです。

  1. 溶接(手溶接、半自動溶接)

  2. 塗装(金属塗装作業、噴霧塗装作業)

  3. 鉄工(構造物鉄工作業)
  4. 仕上げ(治工具仕上げ作業、金型仕上げ作業、機械組立仕上げ作業)

  5. 機械加工(普通旋盤作業、数値制御旋盤作業、フライス盤作業、マシニングセンタ作業)

  6. 電気機器組立て(回転電機組立て作業、変圧器組立て作業、配電盤・制御盤組立て作業、開閉制御器具組立て作業、回転電機巻線製作作業)

 

特定技能「造船・舶用工業」の取得要件

特定技能「造船・舶用工業」を取得するには、2つの方法があります。

1つは、技能試験である「特定技能評価試験」と、日本語試験である「国際交流基金日本語基礎テスト」に受験し、合格することです。


「特定技能評価試験」とは、特定技能の14業種がそれぞれ異なる試験を実施しています。

特定技能「造船・舶用工業」では、国土交通省が定める「造船・舶用工業分野特定技能1号評価試験」を受験することになります。なお、在留資格「技能実習2号」を良好に修了(3年)した外国人は、試験が免除されます。


「特定技能評価試験」の受験資格は、何らかの在留資格を有していることです。また、国際交流基金日本語基礎テストは、母語が日本語でない人であれば、だれでも受験することができます。


2つ目は、技能実習2号を修了して、試験を受けることなく、在留資格「特定技能」を取得することです

 

外国人雇用の条件

外国人を雇用する企業は、特定技能雇用契約や受入れの状況に関する各種届出が義務付けられています。
届出をしなかったり、虚偽の届出を行ったりした場合には、罰則の対象となります。

この届出には、随時届出と定期届出の2つがあり、随時届出は事由発生日から14日以内に届け出なければなりません。また、定期届出は、四半期ごとに翌四半期の初日から14日以内に提出しなければなりません。


雇用した外国人には、以下のいずれかの業務に従事させることができます。

  • 溶接(手溶接・半自動溶接)
  • 塗装(金属塗装作業・墳霧塗装作業)
  • 鉄工(構造物鉄工作業)
  • 仕上げ(治工具仕上げ作業・金型仕上げ作業・機械組立仕上げ作業)
  • 機械加工(普通施盤作業・数値制御施盤作業・フライス盤作業・マシニングセンタ作業)
  • 電気機器組立て(回転電気組立て作業・変圧器組立て作業・配電盤、制御盤組立て作業・開閉制御器具組立て作業・回転電気巻線製作作業)

 

なお、雇用する企業は外国人と直接雇用契約を締結しなければなりません。

 

まとめ

造船・舶用工業分野でも、就業人口が減少し、今後も特に地方での労働人口は増加する見込がありません。

「特定技能」が設けられことにより、外国からの労働者を確保することになりました。2020年6月末現在で、特定技能「造船・舶用工業」の外国人を175名受け入れています。

ただし、他の特定技能と同じく、要件が厳密であり、運用には十分留意する必要があります。
※出典(出入国在留管理庁・特定技能1号在留外国人数